2016 A/W MEN'S THE PORTRAITS

大きく世界が変わるときには必ず戦争があり、今そんな戦争の足音 がする。ふたつの世界大戦を目前とした 100年前のヨーロッパ情勢は、パリ同時多発テロ以降の不穏なヨーロッパの姿と重なり合うのかもしれない。今回ミハラが着目したのは100年前に撮影されたアウグスト・ザンダーのポートレ イトである。ザンダーの時代に映し出された人々の服は、もちろん既製服がひと つもない。そこには、ランダムにつぎはぎされ、いびつなテーラリ ングが施され、独特なディテールを持った服たちである。そこから見えてきたのは、未完成なもの、不規則なもの、逸脱したものの美しさだ。「シンプル、ベーシック、ゆえに交換可能で均一化された服ではなく、着る人のパーソナリティがあって成立する存在感のある服。継ぎ接ぎされていたり、いびつになっていたり、穴が空いていたり、ほつれていたり...。そこにはモノ自体が放つ力強さがあり、それらを身に付けていた男の内面をも見事なまでに映し出す」 遺された服が物語る、持ち主の温もり、生きてきた記憶... 不穏な空気が社会を包む今、“不完全な美”が語りかけるものを感 じてほしい。